ケルヒャーの家電デザイナーに聞く、デザインの裏にある哲学と“成功の秘訣”とは

ケルヒャーの家電デザイナーに聞く、デザインの裏にある哲学と“成功の秘訣”とは
COLUMN

清掃専業メーカーのケルヒャーにおいて、その象徴的なデザインの裏には、ホームアプライアンス・デザイナー・チーフ、マイケル・マイヤー 氏の熱意と哲学が息づいています。

1950年にヨーロッパで発表した初の業務用温水高圧洗浄機から始まったケルヒャー高圧洗浄機は、時を経て清掃のプロフェッショナルだけでなく、一般家庭にまで浸透しました。

そこでドイツのヴィネンデンにあるケルヒャーの本社で、マイヤー氏にケルヒャーの「デザイン哲学」とそれに基づいて開発された「日本向けの製品」についてインタビューを行いました。

さまざまな国の文化、生活様式を製品に取り込む

ホームアプライアンス・デザイナー・チーフのマイケル・マイヤー氏

ホームアプライアンス・デザイナー・チーフのマイケル・マイヤー氏

まずマイヤー氏に、ケルヒャーのデザイン哲学について聞いたところ、「製品を全世界に展開する上で、日本を含めた様々な国を訪れ、それぞれの文化やライフスタイルを研究している」と言います。  

「例えばブラジルのライフスタイルはヨーロッパとは全く違います。家のことは女性が主導権を持っていて、女性が高圧洗浄機をキッチンで使用します。とても暑いので、ドアなどすべてを高圧洗浄機で掃除するのです。 

家庭内の使用ですから外観も掃除機のようなデザインが好まれますので、南米圏に合った特別なデザインを考えました。北米も違います。すべて金属でラフにも扱えるようなデザインです」(マイヤー氏) 

 ケルヒャーでは、ドイツで開発した製品を全世界へ展開していくことが多いのですが、こうした地域ごとのニーズを理解し、デザインに取り入れることが、ケルヒャーがグローバル市場で成功する一因となっています。

  マイヤー氏は、「私たちはお客様がケルヒャーの製品を使ってハッピーでいてくださることが狙いですから」と語ります。

  また、1935年にケルヒャーを創業したアルフレッド・ケルヒャーは「ユーザー・ベネフィット(ユーザーの利益)」の理念を掲げており、デザイン哲学もこれを継承していると言えます。

  「家庭用のインドア製品は今後、すべて白に統一されることになりました。実はインドアで黄色はあまり好まれていなかったのです。黄色い壁で生活している人は少なく、多くの人は白い壁を好んでいます。白は感覚的にも静かで落ち着く色です。皆様が白を気に入ってくださっているのでその方向になりました」(マイヤー氏) 

 お客様のライフスタイルを大切にし、それが製品の進化につながっていることが、ケルヒャーの製品が愛される要因の一つであり、今日のケルヒャーの成功を支えています。

ケルヒャーのデザイン哲学

さらに、マイヤー氏は、ライフスタイルを大事にする上で、デザイン言語の重要性も言及しています。競合他社が多数存在する中で、ケルヒャーというブランドをアピールすることが求められます。 

デザイン言語とは「触感、音、見た目」すべてであり、これらがお客様にとって心地よく、共感を生むように設計されていることが欠かせないのです。

 さらにデザイン言語の中でも、製品の「サウンドデザイン」にも注力していると言います。例えば、ある製品では外観は満足いくデザインにも関わらず、起動時の騒音が課題でした。

 しかし、お客様の声に合わせて課題を解決するところに、理想の製品に仕上げる姿勢が垣間見えます。

ユーザーに寄り添うことで誕生した日本向けのヒット製品「K MINI」

「JTK サイレント(左)」、「K MINI プラス(右)」

「JTK サイレント(左)」、「K MINI プラス(右)」

K MINI

「K MINI」

ユーザー・ベネフィットを一番に考える、そんな事例を表すのが国内で発売されたとあるヒット商品です。

 2017年、「日本のお客様の高圧洗浄機に対する不満を解消したい」、「掃除・洗浄する喜びを感じられる高圧洗浄機を届けたい」そんな想いを胸に、ある新製品の開発がスタートしました。

 それがケルヒャーの代表的な製品の一つである、コンパクトな高圧洗浄機「K MINI」で、日本独占の製品から世界的なヒット商品に成長しました。

 小型でありながらも、振動による騒音を抑えるための研究開発やパーツの収納性など非常に機能的な製品でもあります。

 その成功についてマイヤー氏は、「K MINIは“日本人に最適な高圧洗浄機は何か“を念頭に、2年の歳月をかけて開発されました。サイズや収納性だけでなく、触れたときに手に馴染む質感や、やわらかさを備えたデザインなど、細部にまでこだわり作り上げた製品です」と話します。

 開発の過程では、日本の一般消費者にインタビューを行う他、家庭の訪問を通じて、日本人の住環境や文化を理解し、デザインに反映させたそうです。

 素材も高品質、メタリックなロゴも洗練され、高級感のある外観。アクセサリー収納のコンパクトさ、日本での、この整ったデザインの成功例が他の製品に応用されるなど、実はこの商品は他の製品を開発する中でもお手本になっています。

K MINIプラス(右)

K MINIプラス(右)/本体サイズが長さ280×幅233×高さ295mm、本体の重さが3.9kg。騒音音圧は72dB、消費電力は1,000W、最大許容圧力は9Mpa、最大吐出水量は330L/h、高圧ホース長は5mとコンパクトな仕様 。

また、日本の通販番組での反響も大きかったとのこと。その人気を受けて日本限定となるホワイトのモデル(K MINI プラス)も誕生したと言います(現在はAmazonでの限定販売)。

クリーンな生活環境を長く提供し続けるサステナブルな設計思想

マイヤー氏

そしてケルヒャーは、サステナビリティにも深い造詣を持っています。マイヤー氏は「お掃除のためのケルヒャーの機器は長く使えます。さらに、家も車もケルヒャー製品でキレイにすれば長持ちするのです」と語ります。 

また、ケルヒャーは環境への配慮として、2012年以降、製品に使用される「再生プラスチック」の割合は4倍になりました。材料調達の際は、持続可能なものであることに注意しており、回収したプラスチックを製品に再利用し、資源の循環を実現しています。

 2025年までに家庭用高圧洗浄機の再生プラスチックの割合を最大50%まで増やすことを目指すなど、高品質かつ環境によいモノづくりを進めています。

ユーザーのライフスタイルに沿った形で、さまざまなデザインの要素やサステナビリティを実現する。それこそケルヒャーのデザインチームが製品を考える上での要素であり、お客様との絆を深め、成功に繋がっているのだと思います。

マイケル・マイヤー氏のリーダーシップのもと、ケルヒャーは単なる清掃機器メーカーを超え、デザインの分野でも高い評価を受ける理由が垣間見えた取材でした。

 

インタビューアー:浦江由美子

もっと、きれいに。もっと、美しく。 -Beautiful clean life-